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山形地方裁判所酒田支部 昭和49年(ワ)58号 判決

主文

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告

1  被告は原告に対し、一九七万七、〇六〇円およびこれに対する昭和四九年一〇月二四日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決ならびに1項につき仮執行の宣言

二、被告

主文同旨の判決

第二、当事者の主張

一、原告の請求原因

1  原告は、佐藤久吉に対する山形地方裁判所昭和三一年(ユ)第二号家屋明渡調停事件の執行力のある調停調書正本に基づき、同裁判所酒田支部に対し、原告を債権者、佐藤久吉を債務者、被告を第三債務者とし、別紙請求債権目録記載の債権を請求債権、別紙差押債権目録記載の債権を差押債権とする債権差押ならびに取立命令の申請をし、これによる同支部昭和四八年(ヲ)第一号、同(ル)第一号事件において、同支部は、原告の申請を認容して、昭和四八年二月七日、原告の申請どおりの債権差押ならびに取立命令(以下「本件命令」という。)を発し、右命令の正本は、佐藤久吉に対しては同月一三日、被告に対しては同月九日にそれぞれ送達された。

2  佐藤久吉は、二〇数年以前より昭和五〇年四月三〇日まで、継続して被告の市議会議員の地位にあり、酒田市特別職の職員の給与等に関する条例(昭和二六年四月一日条例第一八号、以下「酒田市特別職給与条例」という。)の定めるところにより、被告から報酬の支給を受けているが、本件命令の正本が被告に送達された昭和四八年二月九日から昭和四九年九月三〇日までの期間における被告の佐藤久吉に対する右報酬の支給年月日、支給額およびそれに対する所得税、住民税を差し引いた金額の内訳は別表記載のとおりであつて、その合計額は一九七万七、〇六〇円である。

3  よつて、原告は被告に対し、本件命令に基づき、佐藤久吉の支払いを受けるべき前記報酬一九七万七、〇六〇円およびこれに対する本件訴状送達日の翌日である昭和四九年一〇月二四日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二、請求原因に対する被告の認否

請求原因1、2項の各事実を認める。

三、被告の抗弁

佐藤久吉は、昭和四七年一二月一〇日、奥山雄二に対し、佐藤久吉が被告の市議会議員として同日以後被告より支払いを受けるべき報酬請求権全部を譲渡し(以下「本件債権譲渡」という。)、昭和四八年一月二〇日の確定日付のある内容証明郵便で被告にその旨通知し、右通知は、同月二二日被告に到達した。

右債権譲渡通知は、本件命令より先に被告に送達されたから、本件債権譲渡は本件命令に優先する。したがつて、原告は、被告に対し本件債権譲渡によつてすでに奥山雄二に譲渡された佐藤久吉の前記報酬請求権一九七万七、〇六〇円の支払いを求めることはできない。

四、抗弁に対する原告の認否および法律上の主張

1  被告の抗弁事実は認めるが、本件債権譲渡が本件命令に優先するとの被告の主張は争う。

2  本件債権譲渡は、次の理由により無効である。

(一) 普通地方公共団体に対する議員の報酬請求権という公法上の請求権(報酬を請求しうるという公法上の地位)は、議員という特別の地位にある者がその地位にあるが故に取得することのできた債権であり、かつ、法令の規定により、報酬の支給を受けるべき一定の期日が到来することにより、一定の金員につき具体的に請求権が発生するものであるから、その具体的に発生した請求権を特定してそれを譲渡の目的とするなら格別、将来の報酬請求権という公法上の権利ないしは地位をあらかじめ譲渡することは性質上許されないものであつて、たとえ、将来の報酬請求権について当事者が譲渡契約を締結し、譲渡通知をしたとしても、右債権譲渡は無効である。

本件債権譲渡は、将来発生する佐藤久吉の被告に対する報酬請求権を事前に譲渡したものであるから、この点において無効というべきである。なお、議員の報酬請求権を事前に譲渡することは許されないが、これを差押え、かつ、取立命令を発することは適法である。(二) また、本件債権譲渡の対象となつた債権は、債権譲渡の対象たる債権としては特定性を欠き、この点でも、本件債権譲渡は無効というべきである。

五、原告の法律上の主張に対する被告の反論

1  原告は、本件債権譲渡の目的となつた佐藤久吉の報酬請求権は譲渡性がないから、右債権譲渡は無効であると主張するが、原告が本件命令により差押えた債権も右譲渡にかかる報酬請求権と同一である。ところで、債権が譲渡性を有しないときは、これを差押えても差押の目的を達することができないから無効と解されている。本件債権譲渡にかかる佐藤久吉の報酬請求権は譲渡性があるからこそ本件命令がなされたものであり、仮に、右譲渡性がないとすれば、本件命令は無効ということになる。

2  原告は、また、本件債権譲渡の対象となつた債権は、債権譲渡の対象たる債権としては特定性を欠くと主張するが、本件命令における差押債権の特定表示と本件債権譲渡における譲渡債権の特定表示との間になんら差異がなく、前者について差押債権の特定があるとする以上、後者についても譲渡債権の特定があるというべきである。

第三、証拠(省略)

請求債権目録

一、金四〇〇万円

ただし、昭和三四年五月二四日から昭和四七年一二月二三日までの原告の休業期間中、佐藤久吉が原告に対し一か月当り一〇万円を支払うべき金員の合計一、六三〇万円の未払残金一、五〇五万円の内金。

差押債権目録

一、金四〇〇万円

ただし、債務者佐藤久吉が第三債務者被告から酒田市議会議員として毎月支給を受ける報酬ならびに六月、一二月に支給を受ける期末手当にして、各支払期における額から所得税、住民税を控除した額にして頭書の金額に達するまで。

別表

〈省略〉

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